日本俳優連合 オフィシャルウェブサイト

Japan Actors Union

理事長就任10周年インタビュー『理事長の「西田敏行」です』

約18分
理事長就任10周年インタビュー『理事長の「西田敏行」です』

2018年3月15日(木)、理事長就任10周年インタビューとして西田敏行氏にお話を伺いました。

「面白い役者」でいるために

池水さん
お忙しそうですね。お体のほうは大丈夫ですか?

西田さん
ええ、何とか、やっています。

池水さん
お身体に気を付けてください。早いもので理事長になって頂いて10年になるんですよ。

西田さん
そうなんですね。もう、10年になるのか!と思いましたね。ついこないだのような気がします。

池水さん
組合員の皆さんに、一言お願いします。

西田さん
理事長をやらせていただいて、もう10年になります。皆さんにも、俳優として、いろいろ不安な部分があるかもしれません。日俳連は、一生懸命頑張って、俳優たちの権利とか、仕事上の思いとか、そういったものを強く世の中に訴えられるような組織でありたいなという風に心がけております。頑張りますので、よろしくお願いいたしまーす。

池水さん
いつもテレビなどで楽しませて頂いています。仕事をする上で、気にしてること、注意していることはありますか?

西田さん
気にしてるっていうか、ぼくが役者を生業としてきたってことには、みんなに楽しんでもらいたいっていうことが、まず第一にありますね。自分が演じることを楽しむということもあるんですけれど、その楽しさが、ご覧頂いてる皆さんに「あぁ面白いな」と思って頂けるようなね。
先輩によく言われたんですけど、「お前の役者としての命題は、面白い役者になる事だ」ってね。「面白い」っていうのは哲学的に色んな意味ありますから。そういった意味で、「面白い役者」でいるためには、自分がいつも色んなことに興味を持つとか、何を大事にしているかとか、そういったことが問われるんですよね。
だから、そういう意味で、物事を面白がったり、人生の面白がり方を追求していくこと自体が、役者の演じることの楽しみ方と似てるんじゃないかなというように思うんですよね。

池水さん
人の感性に訴える大変な仕事ですね。

西田さん
いや、楽しい仕事ですよ。大変って、まぁ大変なんですけど。まず、やってる本人が、志と楽しみを持って、「演じる」という仕事をしていかないとね。

偉大な先輩 森繁久彌さん

池水さん
24年間、日俳連理事長を務めて下さった森繁久彌さんにも、西田さんと同じように、見ている人に楽しさを与えるサービス精神を感じていました。森繁さんとご一緒の仕事は?

西田さん
因縁というか、森繁さんがライフワークのようにされてた仕事を引き継いでいることが多いんですよね。
『屋根の上のヴァイオリン弾き』もそうです。あれは、1994年から2001年までやりましたね。
それから、NHKでやってる『日曜名作座』というラジオの語りをですね、これも森繁さんが50年おやりになってたんだけど、それも引き継いで『新日曜名作座』ということで、日曜の夜19時20分、ラジオでやってます。

池水さん
森繁さんが、加藤道子さんとやられていた番組ですね。

西田さん
そうそう!それを今は竹下景子さんと。10年。

池水さん
平成3年、私、帝劇の森繁さんの楽屋を訪問しました。アニメの収録現場の酷さを改善するため、デモンストレーションを行なって世間にその状況を知らせたいと、許可を求めに参ったのです。「そうだったのか、アニメをやっている人は儲かってるとばかり思っておった。それはいかんね。やんなさい!」と励ましてくれました。

西田さん
うん。偉大な先輩でしたねえ。

ただ、呆然!東日本大震災

池水さん
西田理事長は、福島のご出身ですね。大震災のときはどこにいらしたんですか?

西田さん
僕はね、ちょうど新幹線で大阪に仕事に行く途中で、熱海の手前のトンネルで新幹線が止まっちゃいまして。状況が何にも掴めないで、ただ新幹線の中で、ずーっと、じーっと、待ちの状態でしたね。
ゆっくり、ゆっくり走りながら大阪まで行って。いやー、大阪のレストランのテレビで、その実害というか、大変な地震だったんだということを知って、もうびっくりしましたね。

池水さん
よく福島にいらしてましたよね?

西田さん
震災後2週間ぐらい経ってからですかね。一回行って、それで大変な状況だったことがさらにわかったし、しかも原発事故があったんで、他の2県、宮城・岩手とはちょっと趣きが違うぞという形で、この福島は三重四重の被害になっているなっていうことを感じましたね。
ただねえ、あのときは呆然としてしまってね。本当に呆然と、ただ呆然としてましたね。俳優としてなんかやれることってあるのかしらって
思ったんだけれど、全く手つかず状態で。それまでに決まってた舞台の 仕事も、ぼくは今芝居できるような心境じゃないということで断ったぐらいなんです。つまり何をしたらいいのか、全く分かりませんでした。
そのうち、避難されている方たちの状況とか心境をうかがう機会を持てたんです。その中に、「ものすごく悲観的な中にいても、楽観的に物事を見ることができる、もうひとりの自分がいたらいいな!」っていう言葉を聞いたんです。
「そうだ、ぼくらができることは娯楽を提供することなんだ。ちょっと の間でも、震災のしんどさから逃れられる、楽しんでもらえる時間を作れればいいんじやないか!」って思ったんです。それで、段々、だんだん、気持ちが新しくなってきて、ドラマや、仕事でも自分のモチベーションが上がってきたみたいなところありますね。

池水さん
日俳連としても、東日本大震災の復興に役立ちたいと、島田(敏)理事を中心に、ずっと復興支援イベントをやっています。西田さんから出品して頂いた事もある、チャリティオークションもずっと続けています。今では、被災地の人との、繋がり・絆ができました。イベントの打ち上げにも、現地から来た人達に参加して貰っています。今年もやりたいのですが、国際俳優連合(FIA)の理事たちが東京に来てミーティングをやります。FIAと日俳連で、「俳優の仕事と地位に関するシンポジウム」をやる予定があり、それが終わってから現地に行こうという意見が出ています。

西田さん
とにかく被災者にとっては、忘れてほしくないですからね。しかし、まだまだ復興とは名ばかりで、心の傷は癒えていないね。特に福島県の方々には、原発事故での気持ちの負担が大きいです。かつての日常には戻れないって、9割方の皆さんがそう思ってらっしゃいますからね。福島県の原発で被災された方々には、もう慰めようがなくてね。だって、40年、50年のサイクルの話ですからねえ。しかも確実に40年たったらキッチリと原発の事故の影響がなくなるかっていったら、その確信は得られてないわけですから。

池水さん
日俳連としても繋げてやっていかなきゃいけないと思っています。

西田さん
そうですね。忘れないで欲しいですね。

島田さん
先日、寄付金を持って福島県の東京事務所に行きました。所長さんが、「お米・農作物・果物を全部検査して間違いなく安全です、ということで出荷してるのに、まだまだ風評被害があるため、なかなか売り上げが伸びていきません。作ってる生産者の皆様から、安全だからもう検査はしないでいいのでは?という声もあるが、県としては風評被害がまだ続いてるので、間違いなく検査して他の県の農作物のレベルと比べても絶対安全なんですよ、と言うために頑張って続けてます。」とおっしゃっていました。

「役者の立場は弱いですね!」

池水さん
先程出た国際俳優連合(FIA)というのは、60数か国の90近い俳優団体が加入している影響力の強い団体なんですが、今年は日俳連がホストになって東京でミーティングを行います。国連の下部機関ユネスコの「芸術家の地位に関する勧告」で、(俳優を含む)芸術家は、知的な労働者であるという位置づけをし、他の職種の労働者が受けている社会保障を俳優たちも受けられるようにしましようという勧告をしています。ですから、FIAの人たちは、俳優というのは労働者だという意識を持っているんです。

西田さん
それは持ってるでしょうね。でも日本はそれが希薄ですね。外国は考え方が進んでいるんですね。芸術や文化が人間が生きていくために本当に大切なものなんだという理解がないと、ユネスコ勧告のような考え方は生まれてこないでしょうね。

池水さん
日本では、税法上、俳優は事業主であり労働者ではないという位置づけになっています。ですから、なかなか労災適用が受けられません。毎年、日俳連では舞台や撮影で起きた事故の補償の件で交渉しています。日本も諸外国と同じようにしてほしいと考えています。

西田さん
役者の立場として、現場で「ここ危ないけどやってくれっか」ってことになっちゃったら、現場の雰囲気を読みながら、無理してやっちゃって、怪我して、そのまんま役者人生終わった!みたいな先輩をぼくは何人か知ってます。そういった意味では、今の日本における役者の立場っていうのは弱いですよねえ。

池水さん
また、外国と違うのは、映画の二次使用の報酬が日本ではほとんど受け取れていません。アメリカでは1930年代から報酬がもらえるようになっています。ヨーロッパでも、俳優は「放棄することのできない報酬請求権を持つ」というEUディレクティブがあり、報酬が支払われるようになっています。何とかして日本でも映画の二次使用料を貰えるようにしたいのです。

西田さん
それはちゃんとしっかりしたいね。報酬が支払われるようになれば俳優たちは大喜びだね。俳優の著作(隣接)権の確立は大事です。

池水さん
俳優とエージェンシーの問題もあります。アメリカでは法律を作って俳優たちを保護しています。そういう法律も日本にはありません。セクハラやパワハラの問題もあります。ゴールデングローブ賞の授賞式に、アメリカの女優さんたちが、抗議の意味を込めて黒いドレスを着て参加したということがありました。外国でも問題があるんですね。

西田さん
あるんですねえ。やっぱり、どこかにひとつの権力が集中しちゃって、その力で映画が作られるとか、舞台が作られるとか、そういう力の構造ですよね。

池水さん
女優さんたちが問題を隠蔽せずに公表したことは、偉大なことだと思います。

西田さん
勇気があることですよ。もしかしたら、それで仕事が減っちゃうかもしれないとか、干されちゃうかもしれないみたいなこともあったかもしれない。リスクを背負いながら、あれだけ運動として巻き上がっていったわけですから。
もう「Me Too」じゃなくて「We Too」という感じらしいですね。

池水さん
そういう、諸々の問題点をひっくるめて、FIAミーティング最終日の9月27日に永田町の憲政記念館で、「俳優の仕事と地位に関する国際間対話」というシンポジウムをFIAと日俳連で行ないます。

西田さん
その記念館で、原発の被害のとき、菅原文太さんが立ち上げた運動に声をかけて頂いて、一緒に記者会見したことがありますね。

池水さん
憲政記念館に、500人ぐらい、俳優はもちろん政治家や役人や業界関係者に集まって貰って、諸外国はこうなっているけど、日本はこんなに違うという話をします。日本が文化国家として生まれ変わっていくための一助になればと思っています。

西田さん
いまだに公文書改ざんなんてやってる国ですからね。まだまだ、遅れてますよ。やらなければならない大事な問題が沢山あるんですよね。

池水さん
9月23日から50人ぐらい外国の方がお見えになります。日本の芸能でFIAの仲間たちを迎えようということで、片岡(富枝)理事が「かっぽれ」をやってくださいます。

西田さん
富枝ちゃん、かっぽれ踊るの?

片岡さん
もう名人なの(笑)。あたし今回はね、太鼓をやるの。テンテケテンテンテン。

池水さん
日俳連にはアクション部会がありますので、忍者や侍によるアクションの演武、オリジナルのソーラン節をやろうと企画しています。

西田さん
ほーっ!いいですねえ。盛りだくさん!

池水さん
9月25日、赤坂見附の駅から1分ぐらいのところにある月世界ビル、昔のキャバレーなのですが、そこでウェルカム・パーティーをやります。政界・官界・業界団体の方々に声をかけ、マスコミの取材も入ります。ぜひ理事長にも、お時間を見つけてお顔を出して頂ければありがたいと思います。再び、組合員の皆さんにシンポジュームへの出席をお誘いください。お言葉をいただいて締めにしたいと思います。

西田さん
日俳連に入っていらっしゃる組合員の皆さん。役者という仕事は、一応大変ではあるけど、根底には楽しくてうれしい仕事なんだということを肝に銘じて頂いて、決して害悪をもたらすものではなくて、すべていい方向に向かっていくための表現なんだ、ということを信じて頂ければという風に思いいます。シンポジウムで、俳優にとっての問題に対する外国の進んだ事例を勉強しましょう。ぜひ参加してください。

池水さん
西田さんが、日俳連の理事長であるということが、組合にとってはとても重要です。ぜひ、今後とも宜しくお願いしたいと思っています。本日はありがとうございました。

西田さん
本当に微力ですけど、お役に立てるのなら、こちらこそよろしくお願いします。

■FIAとは
国際俳優連合(International Federation of Actors=通称FIA)のこと。
2012年のWIPO視聴覚実演条約(北京条約)採択に大きな力を発揮したことでも知られる、世界60か国以上の90近い俳優団体が加盟する団体。
日俳連も、日本の俳優たちの経済的・地位的向上のために、この世界組織に加盟しています。

今回の国際会議は東京で初めて開催されます。日本の行政やメディア・実演関係団体も含め大きな注目を集めることになるでしょう!

「FIA東京ミーティング2018」日程
9月23日(日)
秋分の日 FIAメンバー来日。
9月24日(月)振替休日 
都市センターホテルにて、執行会議等。
9月25日(火)
都市センターホテル 英語圏会議。ウエルカム・パーティ。
9月26日(水)
都市センターホテル 理事国会議。ディナー・パーティ。
9月27日(木)
都市センターホテル 理事国会議。
15:00~
憲政記念館講堂(永田町・国会図書館の近く)
シンポジウム「俳優の仕事と地位に関する国際間対話」
定員500名。入場無料。日・英同時通訳、レシーバー用意あり。
お申込み方法は後日お知らせいたします。

日俳連公式ウェブサイト『池水通洋の訪伯記』では、2016年にブラジルで行われたFIAの世界大会の模様を詳しくお伝えしております。こちらも是非ご参照ください。

以上、2018年3月15日(木)に伺いましたインタビューよりお届けいたしました。

西田敏行 理事長
池水通洋 専務理事
片岡富枝 広報担当
島田敏 事業担当
熊沢博之 事務局長
『日俳連ニュース』#166より